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精神の障害年金 審査における「就労」の解釈について考える①

 

執筆者:中斉徳久(社会保険労務士)

 

札幌ライラック社会保険労務士事務所所長。大学卒業後民間企業を経て、社会保険労務士になる。15年間以上障害年金の相談・請求代理業務・不服申し立てなどを専門に活動。過去の障害年金業務サポート数は1000件を超える。事務所所在地:札幌市厚別区厚別中央3条2丁目10-10ー102。地下鉄東西線「ひばりが丘駅」から徒歩9分。

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精神の障害年金 審査における「就労」の解釈が雑過ぎる!

 

札幌市厚別区で社会保険労務士事務所を運営している中斉と申します。

 

筆者は、障害年金請求代理業務を始めて16年目になります。ここ最近現場で動いていて思うのですが、精神の障害年金の審査における「就労」の解釈が非常に雑過ぎるような気がします。

 

診断書において、「就職活動をしている」、「バイトを転々」などの文言が少しでも記載されているだけで、3級にすら該当しなかったケースが散見されます。

 

診断書における「日常生活能力の判定」や「日常生活能力の程度」、あるいは「障害の状態」の欄などの記載内容はあきらかに3級以上の障害等級に該当すると思われるもの(ガイドライン・等級の目安)でも、3級すら認められない。

 

そんなケースをいくつも見てきました。

 

診断書の内容ではじゅうぶん2級相当と思われる内容でお、ちょっとバイトをしていたから3級に着地した。そういうことならまだ納得いかなくもないのですが、最悪3級でもいいと思っていたら、3級すら非該当になることなど特に珍しいと思わなくなりました。

 

これは、最近話題になっている2024年度の不支給率増加問題と通ずるものがありますが、そこにだけ落とし込むことは大変雑すぎると思います。

 

これは、審査する側の「就労」の解釈の問題だと思います。

 

どんなに「日常生活能力の判定」および「日常生活能力の程度」等の内容が、ガイドラインの等級の目安に該当したとしても、少しでも「就労の匂い」がすれば、それらはいとも簡単にふきとばされてしまうのです。

 

そして、保険者はこれを定量的に数値としてあらわすのが難しいので、「総合的」というあいまいな言葉を使ってうやむやにする。

 

「総合的に判断し不支給としました」というキラーフレーズ。

 

しかし、その意味を論理的に説明できる保険者等をみたことがありません。

 

 

 

 

「就労」といっても一括りにできるものではない

 

認定基準にもしっかり明記されていますが、就労といっても一括りにできるものではないはずです。

 

精神の障害の認定基準を一部引用します。

 

現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。

 

1その療養状況

2仕事の種類、内容

3就労状況

4仕事場で受けている援助の内容

5他の従業員との意思疎通の状況等

 

上記の項目を十分確認したうえで判断することとあるではありませんか。

 

ひとえに仕事をしていたといっても、人それぞれ様々なが「背景」があるはずです。

 

もちろん、体調が改善して「安定した職業として成立している」といったこともあるでしょう。しかし、人によっては「吐きながら仕事をしている」、「経済的な理由から生活のために這ってでも仕事に来ている」、「扶養する家族の前で、一瞬強いところを見せようとする」など、さまざまな「背景」が存在するのです。

 

それを「仕事をしている」とくくってもいいのでしょうか。

日常生活が高いものと容易に判断していいのでしょうか。

 

精神疾患を長年患う者でも、いや、だからこそ家族や医師の前で、復職の意欲を見せることなど珍しいことではないと思います。家族がいる中、うつ病を患い失職した者の焦りは、当事者しかわからないほど切実なものでしょう。

 

夫の代わりにフルでパート労働する妻。食べ盛りの子供。貯金が目減りする状況等で、「よし、俺も働いてみるか!」と一瞬強がることなど珍しいことではない。

 

また、精神の疾患でも体調に波があり、短期間の間に「調子がいい」と感じる時も何度かあるでしょう。そんな時に「来週からバイトでもしようかな」となることもあり得ます。なにより困窮が迫り仕事をせざるを得ない状況に追い込まれる場合だってあるはずです。

 

そして、多くはさらに体調を悪化させ、結果二度と社会復帰が不可能になる。長期的に見て社会復帰が遅くなるケースを筆者はたくさん見てきました。

 

それなのに、ちょっと仕事について、体調を悪化させ短期間で転職を繰り返した状況を、年金機構ひいては厚生労働省は、障害年金の対象から容赦なくはずすのはいかがなものでしょう。

 

繰り返しますが、認定基準には「仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること」とあります。しかし、筆者はそれを励行しているとはとうてい思えません。

 

そんなに仕事をしていることを嫌うのであれば、認定基準において、就労の定義についてしっかりと明記すればいいのではないでしょうか。

 

しかし、そのあたりあいまいなままにして、「総合的な判断」とうわけのわからない言葉で「不支給」を言い渡すのです。

 

そしてここが重要なのですが、そもそも、医師の書いた「日常生活能力の判定や程度」等が、就労しているという事実だけを拡大解釈し、何も考慮されていないというのはどういう了見なのでしょうか。

 

なぜ、医師はそのようなジャッジをしたのか、もっと追及すべきです。

 

医師の診断書を信用できないのなら、そもそも診断書の提出など義務付けるなといいたい。

 

この期間、請求者はたしかに仕事をしていた時期がある。しかし、本当に仕事ができる状態だったかどうか。実は危険な状態だったのではないかと、深くつっこんだ上で判断する姿勢を見せてほしい。

 

例えば、給料が月額は30万円で、診断書記載日の前後には出勤していたとしても、それをもって「日常生活能力が高い」と言い切れるでしょうか。

 

ひょっとしたら、自殺するほど追い込まれて明日失職するかもしれない30万円と将来は50万円を目指す将来有望な30万円では意味合いが違う。

 

保険者等はよく考えてほしい。明日職を失うかもしれない状態を。けして他人事ではないのです。

 

繰り返しますが、障害年金審査において、「就労」の解釈を具体的かつ丁寧に扱ってほしいです。

 

少なくとも「総合的に判断した」などのいいかげんな回答だけはやめていただきたいものです。

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