執筆者:中斉徳久(社会保険労務士)
札幌ライラック社会保険労務士事務所所長。大学卒業後民間企業を経て、社会保険労務士になる。15年間障害年金の相談・請求代理業務・不服申し立てなどを専門に活動。過去の障害年金業務サポート数は1000件を超える。事務所所在地:札幌市厚別区厚別中央3条2丁目10-10ー102。地下鉄東西線「ひばりが丘駅」から徒歩9分。
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「てんかんでの障害年金請求はむずかしい」には理由がある
札幌市厚別区で社会保険労務士を運営している中斉と申します。障害年金の請求代理業務・(再)審査請求などを手掛けて16年目になります。
障害年金の請求において、てんかんでの請求はむずかしいと言われています。
筆者も長く現場でやっていて、それは切に感じます。
その理由のひとつとして、てんかんの診断書は精神の障害の書式と同じであり、脳神経外科(脳神経内科)の医師にそれを書いてもらうハードルが案外高いということが挙げられるでしょう。
そうです、先生たちの「精神科の医師でもない我々がなぜ精神の診断書を書かなければならないのか」というやり取りから始まるケースが多いのです。
それでも押し問答のあげく、「そこまで言うのなら書きましょう」となるのですが、そういう時ほど、いい結果に着地することは極めて少ないです。
それは、「書けといったから書いたんですが、何か?」というスタンスだからでしょう。
そういう時は、たいてい診断書の内容が「薄い」ものだったり、「日常生活能力」の箇所が空欄になっていたりするのですが、当然それに対し何か物申すことなど無理筋な話です。
ではなぜ、そのように「薄い」内容になりがちかというと、「日常生活能力」についての解釈が、精神科の先生と異なる場合が多いからでしょう。
てんかんという病気において何が一番たいへんかというと、いつ何時発作が起きるかわからないということだと思います。薬を飲んで健常者と同じように生活していたものが、何の前触れもなく意識を失うような発作がおきることは、とてつもないリスクです。
筆者の知り合いに、それこそ5年以上もてんかん発作が起きなかったということで、寛解したものと安心し車の運転をしたところ、意識を失う発作がおこり大事故を起こしてしまった方がいます。
幸い、ドライバーも相手方も命に別状がなかったのですが、これは大変なことです。
しかし、このようなてんかん患者に対し、5年間一度も発作がおきず、フルに仕事をし普通に生活を営んでいたのだから、今回は1日だけ病状が悪化したにすぎず、それ以外は健常者と変わらないという解釈もできるものです。そして、脳神経外科(脳神経内科)の先生方がそう考えることは少なくないのです。
障害認定基準・第8節/精神の障害 の認定要領に3級の例示に以下の記載があるので引用します。
十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回未満、もしくは、C又はDが月に1回未満あり、かつ、労働が制限を受けるもの
つまり、この「労働が制限の受けるもの」という解釈がかなり違ってくるということですね。
医師が「労働が制限を受けていない」と判断すれば、どんなにひどい発作が過去に頻発していたとしても障害年金を受給することはできないということになります。
30メートル飛ばされる交通事故 一命を取り留めるもてんかんを患う
昨年、てんかんの患者さんから障害年金請求の依頼を受けたことがあります。
名前はYさん。53歳男性。
Yさんは、飲食店を経営。商売はそれなりに順調でした。
しかし、悲劇がおこります。
ある日の夕方のジョギング中、後ろから来た50キロ代で走行中の車に轢かれ30メートルふっ飛ばされたのです。
ドライバーは、70代後半の高齢者。後ほどわかったのですが、居眠り運転でした。
Yさんは、当然意識がないまま病院に救急搬送されました。意識が戻るまで10日ほどかかったといいます。
大掛かりな手術を越え、約2か月の入院生活。その後リハビリ目的の入院を約1月過ごし、若干の後遺症はあるものの、何とか仕事に復帰できたのです。まさに奇跡的な話です。
しかし、安心したのもつかの間、またぞろ悲劇はおこります。
事故から約4カ月後、自宅で意識を失うほどの発作がおこったのです。自宅近くの脳外科へ救急搬送されます。診断名は「外傷性てんかん」。その発作の後、最初に救急搬送された病院の先生に報告したところ「あれだけの事故だったので、じゅぶんおこりうることでしょう」と言われたとのこと。
それが、ある意味交通事故の後遺症との闘いのはじまりでした。
その約2か月後、またぞろ自宅で意識を失うほどの2回目の発作。
また、その約半年後、同様の3回目の発作。そして約4カ月後には、散歩中に道端で4回目の同様の発作がおきたのです。
Yさんは、1年数か月で、意識を失うほどの発作が4回もおきてしまった。これは重症といっても過言ではないでしょう。
しかし、担当医の見解は違いました。
「あなたは正常です・・・」
てんかんでの障害年金 やはり医師しだいである。
Yさんは、てんかんの担当医に障害年金の診断書の記載を依頼します。
つい何か月前に担当医は、「これから生活が色々大変になるから障害者手帳の取得を勧めます。あなたならてんかんで3級程度の手帳はとれるはずだから」と言ってくれるほど協力的だったので、障害年金の診断書を快く記載してもらえるものと認識していました。
しかし、障害年金の診断書の記載において、先生はあまり乗り気じゃなかったのです。
よくわかりません。障害者手帳の取得は勧める。3級程度じゃないか。つまり、あなたは障害者である。生活に支障が出ている。ならば、障害年金の診断書も記載しましょうとなることに何ひとつ違和感はありません。
しかし、先生は障害年金の診断書は「書きません」と。意味が分からない。
押し問答の末、何とか「そこまで言うのなら書いてあげるよ」ということになったのですが、できあがったものを見て腰を抜かすほど無意味なものだったのです。
Yさんの診断書の内容を一部引用します。
日常生活能力の程度 (1)「社会生活ができる」
日常生活能力の判定 7項目の全て(1)「できる」
見事な評価です。これじゃ請求しても100%支給されることはありえない。
大事故から約1年半の間に4回も意識を失うほどの発作を起きている患者の評価がこれです。
これが、「書けといったから書いた」診断書なのです。
あの障害者手帳3級(てんかん)はいったい何だったのでしょう。障害年金の診断書の内容と全く整合性がとれていないじゃないですか。
Yさんと担当医は次の受診の際、以下のような会話をしたと言います。
Yさん「先生、今回もらった障害年金の診断書、なぜこのような内容になったのですか?」
先生「あなたは、事業をしっかり進められている。それに今回だって自分で病院に来れているではないですか。そういう方が、障害年金を受給するというのはどう考えてもおかしい。」
Yさん「いや、問題はそこではなく、この病気のリスクは発作がいつ起きるかわからないということにあるのではないですか。約1年半で4回意識を失うほどの発作がおきたんですよ。これは大変なことです。今後だってどうなるものかわからないですから。クルマを廃棄し自動車免許だって返納したんですよ。」
先生「いや、脳派を調べたが今のところ全然問題はありません。あなたは健常者と何の変りもありません。」
Yさん「私の知り合いで脳派に問題ないと言われていて、それでも激しい発作がおきた者もいます」
先生「そんなこと言われましても・・・」
こういったやりとりは、実は色んな病院で行われているのです。
とりあえず、現状では障害年金の受給は厳しいでしょう。
Yさんは、現在障害年金に対して理解のあるてんかんの専門医を探しているところですが、筆者としては、今後Yさんに発作がおこらず、まずは普通に生活していけることを祈るばかりです。
それにしても、障害年金は先生しだいということがわかるエピソードですね。