執筆者:中斉徳久(社会保険労務士)
札幌ライラック社会保険労務士事務所所長。10年以上障害年金の相談・請求代理業務・不服申し立てなどを専門に活動。過去の障害年金業務サポート数は1000件を超える。事務所所在地:札幌市厚別区厚別中央3条2丁目10-10-102。地下鉄東西線「ひばりが丘駅」から徒歩9分。
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障害年金の申請 初診日が古すぎる時はやっかいである
前回投稿したコラムで、「初診日を確定するのに、とても苦労した案件があったことを次回書きます」と記載しましたが、今回は、初診日があまりにも昔すぎる時どうしたらいいかを考えていきたいと思います。
相談者:(Xさん59歳 男性 休職中)
傷病名:双極性障害
初診日:昭和62年頃
病歴:
A病院・精神科 (昭和62年~平成2年)
Bメンタルクリニック (平成2年~平成4年)
C神経クリニック (平成5年~平成7年)
D内科精神科 (平成8年から平成9年)
E病院・精神科 (平成11年~平成14年)
F大学病院・精神科 (平成15年~平成19年)
Gメンタルクリニック (平成20年~平成20年)
H病院・精神科 (平成21年~平成23年)
Iメンタルクリニック (平成24年~平成29年)
J病院・精神科 (平成30年~現在)
病歴はざっとこんな感じです。
現在に至るまで10個の病院にかかっており、初診日は昭和62年ととても古い。
Xさんは、大学を卒業後一度就職しましたが、体調不良のため、昭和63年から5年間ほど無職で年金保険料も未納が続いていました。その後社会復帰しましたが、軌道に乗りかけたところで体調を崩し何度も転職しています。
現在も体調は一進一退の繰り返しで、会社に所属しているものの休職中です。
そこで、障害年金の申請を検討します。
Xさんは、記憶の限り病歴をまとめて年金事務所の窓口に相談に行ったのですが、「初診日の証明が必要なので、昭和62年のA病院の受診状況等証明書を取ってください」と言われました。(その他にも色々と説明を受けたと思いますが、Xさんの記憶には残っていなかったようです)
そんなことができるのか・・・
打ちひしがれてXさんは幣事務所に相談に来たということです。
障害年金を申請するのに魔法の杖などない
さて、こういう時どうしたらいいのでしょう。
魔法の杖などないというのが正直な所です。
こういう場合ひとつひとつ潰していくしかないのです。
現在通うJ病院・精神科でわかる病歴として、一番古いものでGメンタルクリニックのところまででした。今回はGメンタルクリニックから順にあたっていくことにしました。
Gメンタルクリニックへ問い合わせたところ、カルテ等の記録は全て破棄されていました。
F大学病院・精神科へも問い合わせましたが、何も記録はありませんでした。
そして、E病院・精神科です。そこのカルテは残っており治療経過などは詳細に残っていたものの、前医の記録がいっさいなく、昭和62年当時にA病院にかかっていたことなどかすりもしませんでした。
D内科精神科から順番に問い合わせをします。しかし、記録はほとんどありませんでした。唯一C神経クリニックに「受診していた」という記録だけ残っていたのですが、初診も終診もなにもありません。
ダメ元で、A病院・精神科にも電話で問い合わせてみました。担当の方の「ちょっと調べてみます」という言葉に過剰に期待したものの、当たり前の話ですが、昭和62~平成2年までの記録などあるはずがありません。「大変もうしわけございませんがXさんという方が当病院を受診した形跡はございません・・・」との回答に淡い期待もやぶれました。
あきらめずに続けていけば初診日の記録が残っていることもある
Xさんに「もうあきらめましょう」と言って、作業を打ち切ることになったのですが、その後思わぬことが起きます。
A病院のソーシャルワーカーさんから電話があったのです。
「Xさんの昭和62年当時の記録が残っていました。受診状況等証明書の記載は可能です」
信じられないことがあるものです。A病院は昭和60年以降の紙カルテを全て残しているそうなのです。
倉庫をじっくり探したところ、出てきたというのです。
ここから形勢はいっきに変わりました。
昭和62年を初診日とし、障害厚生年金を事後重症請求で申請。無事2級を受給することができたのです。
初診日が相当古い場合、なかなか初診の証明ができず、申請を断念せざる場合がありますが、最後まであきらめず進めていけば何とかなるケースもあるのです。
ただ、現在ならほとんどの病院は電子カルテにしているため、5年で記録はなくなるといったことはほぼほぼないでしょう。こういった煩わしい作業がなくなる日は近づいているのではないかと筆者は考えております。